区議会第二回定例会での一般質問(6月1日)

【1】区長の政治姿勢について

(1)G7広島サミット

 杉並区はHPで“原水爆禁止署名運動”発祥の地であることを誇り、「核兵器のなくなることを願」う『平和都市宣言』(1988年)を掲載しています。核抑止力と核保有を完全に正当化した『広島ビジョン』はこれに真っ向から反するものであり、杉並区こそ最先頭で抗議の声をあげるべきです。

5月19~21日に開催されたG7広島サミットが核戦争会議だったことは、採択された『核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン』に鮮明に示されています。広島・長崎への原爆投下を「正義」と居直るアメリカを筆頭に、G7首脳らは自らの核兵器・核戦力のみを正当化する宣言文を、被爆地・広島で採択しました。しかもそれは、従来の核抑止力論の単なる繰り返しではなく、ロシア・中国を相手とした世界戦争へ突き進むG7による新たな「核戦争宣言」です。

 「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」——『広島ビジョン』のこの一文こそ、今回のサミットの核戦争会議としての正体をあらわにしています。核兵器保有を有用かつ必要不可欠な手段として全面的に肯定しました。

 カナダ在住の被爆者・サーロー節子氏は、「自国の核兵器は肯定し、対立する国の核兵器を非難するばかりの発信を被爆地からするのは許されない」、元広島市長の平岡敬(たかし)氏は「岸田首相がヒロシマの願いを踏みにじった。戦後一貫して核と戦争を否定してきた広島が核抑止力を強調する舞台として利用された。議長国である日本の岸田首相はとても罪深い」と強く弾劾しています。被爆地・広島を冒涜(ぼうとく)する『広島ビジョン』に多くの被爆者・被爆者団体から抗議の声が上がっています。

 さらに、来日したゼレンスキー・ウクライナ大統領と会談したバイデン大統領はF16戦闘機の供与を決め、岸田政権も自衛隊車両100両を提供すると発表。イギリスが供与した劣化ウラン弾や長射程巡航ミサイルが実戦投入されようとしています。サミットへの抗議デモに機動隊が暴力的に襲いかかり2名の学生を不当逮捕した映像が全世界に拡散されています。私はこの戦争会議および日本のウクライナ戦争参戦を絶対に認めることはできません。サミットで打ち出された「広島ビジョン」への区長の見解を伺います。また、ウクライナへの自衛隊車両100台供与の軍事支援について、区長の見解を伺います。

(2)自衛隊入隊者の激励会について

 自衛隊の戦争参戦が現実に迫る中、自衛官の退職が激増し、中途退職者は10年あまりで4割増え、年間約4700人、新規採用者の3分の1に相当します。また、自衛隊への応募も激減しています。今年4月19日の日本経済新聞では、「自衛官採用、過去最低に」「任期制、計画の半数割れ」と報道されました。政府にとって、軍事予算2倍化の大軍拡と一体で、戦場に送る兵士の確保=募兵が大問題になっています。自衛隊は軍服を着た労働者です。自民党・麻生太郎副総理の“戦える自衛隊発言”(4月17日、「戦える自衛隊に変えなければならない。そのためにも憲法改正が必要だ」)について区長の見解を伺います。岸本区長が今年3月22日に区役所内で「自衛隊入隊・入校予定者激励会」を行った理由を伺います。激励会は止めるべきと思いますが区長の見解はいかがでしょうか。

 あらためて、杉並区による自衛隊募集業務に強く反対します。衰退する軍隊を自治体が必死になって支えようという戦争協力行為であり、自治体労働者の戦争動員そのものだからです。自衛隊への個人情報提供をただちに停止すべきです。本人の同意なく区民の個人情報を自衛隊組織に閲覧という形で提供することについて区長の見解を伺います。自衛官募集事務費の委託金の予算額が倍増した理由について、今年3月の予算特別委員会の質疑で「今年度は重点区市町村に指定されたため」と答弁がありましたが、「重点市区町村」とは何であり、どのような基準で指定されるのか伺います。

(3)マイナ保険証とマイナンバー制度について

 岸田政権は3月7日、マイナンバー関連の約60本の法律を大改悪する「束ね法案」を閣議決定しました。今国会で法律を根本から変え、個人番号と住民情報のひも付けを、法改定によらず政省令だけで際限なく拡大できるようにすることを狙うものです。全国の自治体が制定し、規制してきた個人情報保護条例は解体され、国家による全個人情報の統合・掌握が進められようとしています。それは徴兵に至る実質改憲・戦時国家体制への全面的転換です。

 マイナンバー制度は2016年に始まりましたが、個人情報とのひも付けは遅々として進んできませんでした。今回の法改悪で、自治体や年金機構が持つ住民の銀行口座番号を強引にひも付け、収入・資産を国が直接掌握・利用できるようにしようとしています。

 すでに、自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)と称して、各自治体が意識して分離してきた住民情報の基盤を統一し、国が一元的に利用できるようにする改変が始まっています。断固反対です。政府はマイナンバーカード普及に3兆円超の予算を投入し、カード拡大とDXを進める自治体に交付金を上乗せしマイナポイントの飴(あめ)を与える一方、国民健康保険証・介護保険証の廃止・マイナ保険証義務化の鞭(むち)でカード取得を推進しようとしています。

マイナ保険証について区長の見解を伺います。また、マイナンバー制度自体への区長の見解を伺います。

【2】性の多様性条例について

 多くの区民、とりわけ女性の疑問や反対の声を無視し、4月1日から「性の多様性条例」が制定・始動しました。制定以降、区は「性の多様性」を実現するために具体的にどのような施策を行ってきたのか、また行っていくつもりであるのかをまず質問します。

 もちろんはじめから性差別からの解放の取り組みを十分に行うことは困難です。しかし、「性の多様性条例」の最大の問題点はすでに明らかになっているように、女性やセクシャル・マイノリティへの絶えざる差別・抑圧を生み出す資本主義社会を根底的に変革するのではなく、むしろ資本主義社会を「維持・継続」させるための表層的な「改善」や啓発運動で社会的差別がなくなるかのような幻想を描いていることです。私有財産制における家族制度のもとで、女性は「子産み道具」「家内奴隷」として差別と性暴力にさらされ、セクシャル・マイノリティに対する差別もまたこの家父長制規範にそぐわない人々への差別として生み出されてきました。このように共通の政治的・経済的な物質的根拠を持つ性的差別・抑圧からの解放のためには、人間が人間を搾取するこの階級社会をラジカルに変革することが必要です。

 例えば子どもに対し教育現場で「男性らしさ」「女性らしさ」の規範が強制されている現実があります。入学式での作法の性差や男女別の服装規定をはじめとする教育現場での性規範・性差別が子どもたちに強烈な抑圧を産んでいます。杉並区のHPでは「4つの性」として、「服装やしぐさ、言葉づかいなど」を性別と結びつけています。このジェンダー規範を追認し再生産する立場を、区は改めるべきです。

 また、自衛官募集業務で戦争協力をしながら「性の多様性」をうたう区の立場は欺瞞です。戦時中には、女性は本人の意思や性自認にかかわらず身体に基づいて産めよ殖やせよの「子産み道具」や「軍隊慰安婦」として搾取され、女性やセクシャル・マイノリティは「性の多様性」とは最もかけ離れた現実を強制されます。岸田政権は今、「異次元の少子化対策」と称して戦時下の「産めよ殖やせよ」政策を丸写ししています。G7をはじめとする米欧諸国では、「多様性」を戦争に利用してセクシャル・マイノリティや女性・移民の徴兵を強化し、「同性愛者への差別撤廃」をピンクウォッシュに利用している現実があります。労働者階級全体の権利を徹底的に破壊して動員する戦争によってセクシャル・マイノリティは決して解放されません。自衛官募集業務=現代の赤紙に協力して岸田政権の戦争国家化を支えながら、「性の多様性」が尊重される社会の実現はありえません。

 性暴力の現実に基づいて闘い取られてきた女性スペースをはじめとする女性の権利が解体されていくのではないかという懸念に対して、「トランスジェンダー女性を性犯罪者予備軍と見做している」とあえて誤読し、女性の声が「差別」として切り捨てられ、同時にトランスジェンダーに対する家父長制・右翼の立場からの差別・排外も激化しています。このように、女性とセクシャルマイノリティが「対立」・「衝突」させられ、多様性の尊重とはかけ離れた現場があることについての見解を伺います。

 私が条例に反対する最大の理由は、社会に厳然と存在する女性への差別・抑圧が「性の多様性」の名の下に曖昧化されている点です。2017年の強制性交検挙数の割合では被害者の99%超が女性です。身体男性から身体女性への性犯罪(性被害)の現実に踏まえない施策は認められません。条例への質問に対し、区は「現実に起きている性犯罪と条例は無関係」「被害に遭ったら警察へ」と答弁しました。性被害を告発することは簡単ではなく、実際に多くの女性が泣き寝入りを強いられている現実を全くふまえていません。性被害を防ぐための取り組みはどのようになっているか伺います。

【3】会計年度任用職員制度について

 今年の春、全国の自治体職場で正規職の大幅人員増を求める春闘が闘われました。病院や介護・福祉施設、福祉窓口、保健所、児童相談所、保育所、学校、児童館・学童クラブ——命に直結する職場がどこも人員不足です。コロナ感染と貧困の拡大で業務が一層増え、労働環境は悪化。病休・離職する労働者が続出し、年度初めからの定数割れが深刻化して、過重労働と人員不足で業務が回らない悪循環が続いています。

 報道される子どもの送迎バスでの放置事故や施設での「虐待」なども、労働者の分断と過酷な職場環境が根底にあります。このままでは社会に必要な公的業務が成り立たなくなるという激しい危機感が悲鳴となって職場全体に広がっています。「人員不足が半端ない」、「産休や病休者が出ても人がつかない」、「現場任せにするな」という切実な声です。

 会計年度職員の年度末での大量雇い止めが全国で大問題化し、労働組合の闘いの正面課題となっています。不当解雇を許さない闘いも始まっています。北海道では3千人を超える雇い止めが報道されました。杉並区も含め、自治体のホームページを見れば、膨大な数の会計年度職員の募集が連日アップされています。それだけの数の職員が雇い止めで入れ替えられるか、新たに増やされて正規職から置き換えられようとしているということです。管理職以外全員が非正規の職場も増えています。

 雇用年限含む会計年度任用職員の勤務条件についての検討状況を伺う。また、現場の声はどのように取り入れられるか伺う。直近のデータで、希望したにもかかわらず雇用が継続されなかった会計年度任用職員の人数とその理由をお示しください。自治体業務を第一線で支える会計年度職員の雇用年限と制度そのものの廃止、職員全員を正規で雇用することを求めます。希望する全員を正規で雇うべきと考えるが区の見解は。

【4】保育園の民営化と児童館について

◎保育園について

 上高井戸保育園、天沼保育園、永福北保育園を民営化する条例が提出されました。今年3月の予算特別委員会で、「保育園の民営化は、基本的には国の現在の施策によるところが大きい。民間保育園だと運営費が出るが、公立保育園の場合は全て区が単独で支出する。待機児童を解消する上で多くの保育園が必要になる中、保育体制を継続する上では、安定的な財政運営を図る観点から、一定の民営化は必要」との答弁がありました。

 私はこれに異論があります。政府がこの40年にわたって主導してきた医療・福祉・介護、保育・教育、郵便、水道、自治体業務などの民営化政策、いわゆる新自由主義政策が、労働者民衆の生活と社会を土台から破壊し、深刻な低賃金構造と格差を生みだしたことにまったく無理解であることです。“国がやるからしょうがない”ではなく、まず公的部門の民営化政策に区として反対するのが区民の生活と命を守る立場にある者の義務ではないでしょうか。再開発事業などの大資本を利する無駄な予算は廃して、保育・教育に大規模に予算を振り向けるべきです。

 岸本区長は以前、『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(集英社新書)という本を執筆されていますが、保育園の民営化や下高井戸児童館廃止、そして今度はゆうゆう天沼館廃止と、自らの主張を否定し、真逆のことを行っている認識はあるのでしょうか。岸本区長の民営化は「いい民営化」なのでしょうか。

 区として保育園を民営化する理由は何か。子ども・保護者にとってどんなメリットがあると考えているか。直営と民営で財政面にどのような違いがあるか。昨年度に実施された大宮保育園、天沼保育園と永福北保育園の保護者説明会で、民営化についてどのような意見が出たか伺う。民営化(指定管理者制度含む)を止め、直営に戻すべきと思うが区の見解を伺います。

◎児童館・学童クラブについて

 杉並では1964年に区直営の学童クラブが発足し、そこから10〜20年をかけて保護者や住民、区職員が力を合わせて、学校外の公共施設内設置、常勤職員配置、住区に一か所の学童クラブ設置を目指し、できたのが41の児童館でした。それが26館まで減らされ、職員の半数以上を非正規化し、学童クラブの民間委託が進められてきました。児童館に受け継がれる想いを、継承される崇高な役割を、何よりも子どもたちの居場所を、奪ってきました。

 児童館廃止は、地域で子どもたちを中心に、誰もが共に生きられる拠点を奪うことであり、労働者家族への打撃です。学童クラブの民間委託と学校内へ配置は、大きな不満・不安を生んでいます。何より正規職員・直接雇用職員の削減で、賃金など労働条件・諸権利と団結の破壊が生まれています。労働者と利用者と地域が分断され、学童養護経験も継承されない問題を生んでいます。

 学童クラブの民間委託を撤回し、直営に戻す、委託先の労働者を丸ごと直雇用すべきと考えます。そもそも、児童館を廃止して、子ども子育てプラザで「小学生タイム」をやったり、学童専用館で「ゆうキッズやる」とか、それって児童館でよくないですか? 自らの提案で今年3月末に下高井戸児童館を廃止しておきながら、「プラザで小学生タイムやります」「子どもの居場所を子ども主体で考えましょう」。本末転倒です。多くの子どもたち、保護者、職員は、一貫して児童館をなくさないでと声をあげてきましたし、現在もそうです。区はこの声を聞くべきです。

 学童クラブではこれまで「受け入れ不可」とされてきた「医療ケア児」の区立学童での受け入れが昨年度から試行的に行われていると聞いていますが、来年度以降の受け入れの考え方について伺う。切実な要望であり重要と思いますが、受け入れを行うにあたっては、必要な施設整備、特に人員体制の確保が必要と考えますが、いかがか。児童館廃止を止めるべき、廃止された児童館を元に戻し、さらに増やすべきと思うが区の見解は。

【5】学校での放射能安全教育について

 汚染水の海洋投棄について、韓国、中国、台湾をはじめ世界中で「海洋汚染につながる」と反対の声が広がっています。マーシャル諸島では過去のアメリカの核実験により、白血病や甲状腺がんなどの羅患率が高く、汚染水海洋投棄について「我々に対する核戦争に等しい」という批判の声が報じられました。韓国メディアは「世界は海につながっている。放射能汚染水を海に捨てるのは世界市民にかかわることだ。世界で唯一原爆を落とされた過去を持つ日本は、いま世界の海に向かって静かに、ゆっくりと核攻撃を加えていることになる。汚染水の海洋放出を決めた日本政府、これを傍観して黙認し、視察団の訪問という名ばかりの措置を進めている韓国政府、そして無責任な両国の政治家に立ち向かう韓国と日本、世界市民の連帯が必要な理由だ」と報じています。

 『広島ビジョン』では、「原子力エネルギー、原子力科学及び原子力技術の利用が、低廉な低炭素のエネルギーを提供することに貢献することを認識する」として、「脱炭素」を口実に核戦略の一環としての原発政策推進が確認されました。そして、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法」が5月12日に衆議院本会議で可決・成立し、世界でも例を見ない原発の60年超の運転を可能にする「GX脱炭素電源法」が昨日5月31日に参議院本会議で可決・成立しました。3・11福島原発事故の惨禍から12年がたち、政府は原発推進政策に急速にのめりこむとともに、将来的な核保有も見据えて再処理工場での使用済み核燃料の処理をも「国の責務」として行おうとしています。

 そうした中で、原発事故の悲惨さを隠ぺいし、“なかったこと”にするかのように「原発・放射能=安全」教育が進められ、福島での放射能汚染水の海洋放出が狙われています。区はこれに協力すべきではありません。

 政府の原発推進政策に対する区長の見解を伺う。原発汚染水の海洋放出についての区長の見解を伺う。放射線副読本とチラシの回収を求めるが教育庁と区長の見解を伺う。

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