杉並区議会第2回定例会での一般質問

杉並区議会第2回定例会が5月29日から始まりました。私は6月2日に一般質問に立ち、新型コロナウイルス感染症対策について質問しました。

【1】医療従事者が求める政策を!

 私は4月20日の第1回臨時会で、約23億円の区費を投入して区内の基幹4病院の減収を補填する補正予算案に反対しました。「減収補填ではなく、感染症病床の防疫、医療従事者の安全、人員体制確保に必要な費用をきちんと保障するべきだ」という考えからです。
今年4月22日発売の『財界』春季特大号(2020年5月13日号)に掲載された河北総合病院理事長・河北博文氏のインタビューを読んであらためてその思いを強くしています。河北氏は、「政府は専門家の意見を聞くと言っていますが、こういう有事のときは感染症の専門医に話を聞いても意味がありません。医療経営がわかる人、医療システムについてわかっている人が入らないと、医療全体を見ていくことはできない」と述べています。
「コロナと闘えば闘うほど病院経営が傾いていく。行政からの補助が必要だ」――最近、こうした論調がマスコミ等でも目立ちます。危機に瀕する病院経営(=医療資本)があることは事実でしょう。しかし、それを行政からの補助、すなわち税金投入で“救済”するあり方には大きな問題点が二つあります。
一つに、「病院経営の救済」と「コロナ対策に関わる医療従事者への援助(種々の装備、賃金、雇用形態、体制、労働災害への補償などを含む)」は決してイコールではありません。“病院”と言っても一様ではありません。資本主義社会である以上、一般的に「資本運営の論理」と「労働者の権利」は対立することが多く、「経営危機による解雇・雇い止め・休業手当未払い・賃下げ」などとの労働争議記事を新聞で見ない日はありません。コロナ対策で危機に瀕する病院経営にカネをつぎ込んだからと言って、それが医療従事者のために使われるとは言えません。実際、マスコミに登場して「病院経営の危機」を訴える経営者が、医療従事者の労働条件向上を呼びかけることはほとんどありません。医療従事者(医師、看護師、事務、清掃など)に対し、現場で求められる装備を即刻支給すること、賃金および必要十分な手当を保証すること、非正規労働者をただちに正規へ転換すること、格段の人員増を図ること、労働上のいかなる不安も取り除く補償制度をつくることが火急に求められているにもかかわらず、例えば『賞与が3分の1「泣きそう」
医療者、コロナで待遇悪化』(5月30日付『朝日新聞デジタル』)、『新型コロナ 専門病院も「マスク不足」 感染症、中核の18機関』(5月3日付『毎日新聞』)という現実が横行します。区として、「医療従事者の抜本的な労働条件向上」という態度を鮮明にうち出すべきです。
いま一つに、そもそも“医療でカネを儲ける”という考え方、社会のあり方そのものが根本的に間違っています。“経営危機”に公的援助を求めることの是非はさておき、この数十年にわたって公的医療および地域医療、そして公衆衛生政策を破壊してきたのは、自民党政権・民主党政権、東京都政、そして杉並区政ではありませんか。安倍政権は全国の公立・公的病院440か所を名指ししての統廃合方針をうち出し、今年度予算に「病床を1割以上削減する病院への補助金」として84億円を組み込みました。2025年までに全国で20万床を削減するとしています。また、小池都知事は3月31日、都の公立・公社病院を2022年度をめどに独立行政法人化することを発表しました。対象は都立8病院と都保健医療公社6病院です。また、全国の保健所は医師のいない保健センターに次々と格下げ・統合され、1992年の852か所から2019年の472か所へと45%も削減されました。感染症病床は、1995年の9974床から2018年の1882床へと8割以上も削減されています。カネもうけを一切に優先させ、“カネにならない”領域を切り捨ててきた惨状がこれです。民営化・外注化・非正規職化および人員削減で、「コロナ危機」以前にすでに社会的医療体制は崩壊しており、政府・都政・区政はそれをコロナ情勢下でさらに推し進めようとしています。医療・介護・福祉・公衆衛生を中心に、労働者・区民の命と生活に関わるすべてを行政が公的に保障すべきです。その立場がまったく感じられない泥縄的な「病院減収補填」に私は強く反対します。

 以下、質問します。
①4月20日の第1回臨時会で採決された感染症予防・発生時対策費の22億2900万円は、4病院にはすでに配分されたのか。
②4病院にはそれぞれいくら配分されたのか。その配分の判断基準は何か。
③今回の財政投入は「減収分補填」として行うとされるが、「減収分」とは診療報酬の減収分を指すのか。
④4病院の医療従事者への危険手当、マスク、ガウン、フェイスガード等の防護具状況を区として把握しているのか。
⑤河北博文氏が雑誌『財界』で、「杉並区長と協議して、われわれのような民間病院を一時的に公営企業の扱いにしたらどうかと提案している」と発言した事実を区は把握しているか。
⑥河北氏は「地方公営企業法の下で自治体病院のような形で、区が民間病院の経営を直接支援する」と述べているが、区長はこの見解をどう考えるか。
⑦都立病院を独立行政法人化する小池都政に対し、区長として責任で反対の意思を示すべきと考えるがどうか。

【2】検査体制強化ならびに保健所拡充について

田中区長は5月12日の記者会見で、「区独自の検査体制の整備」として、「保健所衛生分室にバイオセイフティレベル2を導入した検査体制を整備する」とうたい上げました。しかし、これは抜本的な検査拡充の体制構築とはとても言えません。
戦後一貫して、結核などの感染症や伝染病から都民の命を守る役割は都の衛生局が担ってきました。しかし、1975年の保健所の区移管でこのあり方が破壊され、杉並区の保健所も3か所あったものが1か所に統合・再編されました。今回「独自の検査体制を行う」とされる旧衛生試験所も、田中区長が言う通り、ほとんどの業務がアウトソーシング(外部委託)され、公衆衛生の重要性は片隅に追いやられています。話を伺った衛生局OBは、「近年ではSARSや新型インフルエンザなど新たな感染症の脅威が人類を脅かしましたが、都政において危機意識と中長期のビジョンをもって、体制の見直しや強化がなされたとは思えません」「東京が単独では感染症に立ち向かえないのが現状」と言っていました。田中区長は記者会見で「国や都がトンチンカンなことをやっているから」と自らの責任逃れに終始しましたが、都議時代も含めて自らが民営化と外部委託を進めてきた責任をどのように考えているのでしょうか。
しかも、この独自のPCR検査が開始されるのは7月下旬とされています。再雇用労働者がほとんどの旧衛生試験所が現在の業務と並行して検査をされる、とも聞きました。きちんとした賃金や手当を保証すべきであり、この区の政策が今の危機を打開し、コロナ感染をのりこえていく本格的な検査体制の拡充とはとても言えません。
保健所は感染対策の最前線機関です。しかし慢性的人員不足で、誰かが感染しても影響されないよう業務を分割して遂行する業務継続計画(BCP体制)すらとれない所が大半です。 「もう限界を超えている」というのが現場の声です。
必要なのは、抜本的な検査拡充のための体制構築であり、区の領域を超えて東京都をあげて検査体制を整えることです。私は4月20日の臨時会で「区独自で動くことによるデメリットが大きすぎる」「根本的な打開策を立案し、都、国に要求するべき」と意見を述べました。これは保健所としての役割、「公衆衛生」のすべてに共通するテーマです。以下、質問します。

①5月12日の記者会見で、田中区長は旧衛生試験所について「これまで民間にアウトソーシングしてきたがそれ一辺倒ではいかない」と述べたが間違いはないか。これまでどれだけのアウトソーシングを行い、どれだけの職員を削減し、また非正規職員にしてきたか、その数字をすべて明らかにしてください。

②杉並区の保健所はこれまでどれだけ職員が削減され、また非正規職員化されてきたのか。さらに医師や保健師の体制などはどれだけ削減されてきたのか。

【3】生活困難者および商店などへの経済的援助について

まず学生をとりまく厳しい実態についてです。全国大学生協連合会が4月下旬に実施したアンケートでは、半数近くの大学生・大学院生が「バイト収入減少の見通し」と回答。ある学生団体の調査では、5人に1人の大学生・短大生が経済的困窮で退学を検討しているとされています。
平時から学生は最低賃金レベルで働かされ、有給休暇などの法的権利さえ無視されているケースが非常に多く、その学生たちが緊急事態宣言を前後して、真っ先に首を切られています。多くの学生の収入がなくなり、貯金を崩して食費にあてているといいます。そんな状態がすでに2か月も3か月も続いています。「(学生支援緊急給付金の)10~20万円をもらったところで何になるんだ!」という学生の怒りは当然です。
1971年には国立大で1万2千円だった年間授業料はすでに53万円にまで高騰しています。2019年には国立大授業料の上限規制が緩和され、東工大や東京芸大では学費が値上げされ、私立大授業料はさらに高額です。田中区長の学生時代と学生を取り巻く状況は一変しています。これもまた自然現象ではなく、大学教育に市場原理を導入し、学問をカネ儲けの道具にしてきた政治の結果です。コロナ以前から、入学と同時に学生・保護者を貧困に突き落としてきた大学・社会のあり方こそが問われなければなりません。
区政領域で言えば、減収入に苦しむ区内在住学生・保護者への緊急支援措置がただちに検討されなければなりません。

そして、新型コロナウイルス感染拡大と緊急事態宣言で職を奪われ、または大幅減収となり家賃も払えなくなっている多くの労働者・事業者への大規模な経済的支援が必要です。「国庫からの約1億5400万」に上限設定されていますが、「あらかじめ決められた枠内でしか支援しない」あり方は、区民の中に「もらえる人ともらえない人」の分断を持ち込むことになります。
そもそも「生活困窮者等自立促進支援事業」というあり方が問題です。政府と杉並区が2013年以降進めてきた、「生活保護費をいかに削減するか」「生活保護費を削るために自立を促す」という「自立促進支援事業」の根本的問題性です。そこでは「生きるための権利としての生活保護」という考え方が否定され、「生活できないのは本人責任だから自立を促す」という考え方に政策が転換されています。その延長で「生活困窮者」への経済支援を考える今回のあり方に反対の立場から質問します。

①新型コロナウイルスの影響で解雇されたり、賃金が減らされた区内在住労働者への家賃を含む全面的な生活支援について、上限を設けず「必要な人に必要な支援」を行うべきと考えるが、いかがか。

【4】介護事業についての抜本的見直しについて

「介護者等が新型コロナウイルスに感染した場合の障がい者等への生活支援事業について」に意見を述べます。
この事業は、区内障がい者団体、家族・関係者から、介護者が新型コロナウイルスに感染した場合に、介護者が安心して入院できるような生活支援を求めるという1500余りの署名を受けて実施されるようになったと聞いています。対象となる障がい者は何人で、特に日常的には介護者が家族だけで、公的な支援を受けていない人の人数を区は把握しているのでしょうか?この事業の実施場所は旧西田保育園とするとされています。しかし障がい者と一言で言いますが、特性は多種多様な方々です。そうした一人ひとりに寄り添いその障がいに応じた支援がされるには、その人への理解と経験、知識がなければなりません。ある介護労働者は「1~2か月、研修を10回ぐらいやらなければ慣れることはできない」と語っています。そうした障がい者をまとめて受け入れることの困難さを、区はどれだけ自覚しているのでしょうか。「これをやったら介護ではなく、抑圧と管理になるおそれがある」という心配の声があります。区はこの事業は民間の経験と実績のある業者に委託すると言っていますが、具体的な業者名と選別の基準を明らかにすべきと考えます。
さらに重要なのは「行動障がい等により自宅以外での生活が困難な障がい者等にあっては、当該障がい者等の自宅において生活支援を実施する」という問題です。生活支援は具体的に誰がどういう体制でおこなうのか?民間の支援事業者に声がかかっているようですが事業者の多くは小規模でギリギリの体制で日常的な支援活動をおこなっています。そこから人を出すことは不可能に近い話と考えます。「事業者が集まらない場合は区の職員を派遣するしかない」と区は説明会で言っています。そうした事態に区内の介護事業者は「普段からの策がなく、グループホームもすべて民間。基本ができていない中では無理がある」と語っています。これまで公的介護・介助を民間に丸投げして破壊してきた責任は田中区長にあります。今必要なのは、「すべての必要な介護・介助は公的に行う」という本来のあり方に戻すこと以外ないと考えます。以下、質問します。

①2000年の介護保険制度導入と2010~11年の旧障害者自立支援法(現障害者総合支援法)改定以来、介護・介助という課題を民間に丸投げしてきたあり方に問題があります。介護・介助を公的あり方に戻すべきと考えるがどうか。

【5】阿佐ヶ谷駅北東地区の再開発をストップしろ!

 コロナウイルス感染症対策のために無駄な行政予算を省き、医療従事者への支援と労働者民衆の生活保障を中心とした「火急に必要な予算」を確保することが必要です。マスコミ等でも“2021年夏開催(予定)の東京オリンピックを中止し、その分の予算を感染症対策へ回すべき”といった主張が散見されるようになりました。命と生活を最優先させる以上、当然のことです。私はこうした立場から、すべての既定事業を推し進めようとする区の姿勢を批判します。とりわけ、杉並区における“無駄な事業”の象徴が「阿佐ヶ谷駅北東地区再開発計画」です。“コロナ情勢”の今こそ、本計画はただちにすべて白紙に戻されなければなりません。

①現在杉並区は、コロナ禍による生活困窮者支援や、休業に追い込まれ収入が激減した商店などへの支援を最優先すべき状況である。当然、阿佐ヶ谷駅北東地区の再開発も中止・休止すべきと考えるがどうか。

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