保育士が足りない理由とは 数字合わせの「待機児童ゼロ」で隠されている問題

「杉並区では、待機児童がゼロになりました」という話をきき、もうこれ以上の努力は必要ないと思われる方に、実情を知っていただきたく、しばしお付き合いください。

保育園に入れない、待機児童の問題は、本当に深刻なものです。入園した年に入れても、一番希望者の多い三歳児保育の年齢になると、定員オーバーになることがあります。(これは、児童館や学童保育でも同じことが起きています)

一度入園できたら自動的にずっと責任をもって預かってくれるんじゃないの?と驚かれる方がほとんどではないでしょうか。なぜこんな、ちぐはぐな定員オーバーになるのか?それは、あまりにも保育士さんに負担がかかり過ぎて、働き続けることができないほどの過労、低賃金、人手不足があり、次々と辞めざるをえない現実があるのです。

田中区長は「待機児童ゼロ」のかけ声のもと、公園をつぶすなど保育園の無理な増設を行なう一方で、区立保育園を次々に民営化してきました。新たに設置された保育園のほとんどは、株式会社など民間企業が運営するものとなっています。今でも保育園の求人は常に出ている状態です。行政が行っている保育への補助金は、民営化された企業の経営者が建設資金や賃貸料などに補填される一方、それらが現場の保育士さんたちの労働条件の改善に結びついていないというのが現状なのです。公設の保育園は、もともと福祉として行われてきました。ですから、利益が出る、という性格のものではなく、社会保障という位置づけでスタートしました。

利益を追求すれば、経費削減をどこから行うのか。現場で働く保育士さんたちの残業代や労働時間、子供たちの環境、給食の材料費、遊ぶ庭のない狭さ…。こうしたことは、制限されてきたのに、民営化によって少しずつ規制緩和され、安全よりもコストカットを優先させる大手企業に次々と置き換えられてしまうことになったのです。

責任感の強い現場の保育士さんたちは、こうした矛盾を必死にカバーして子どもたちの命を守るため、過労状態で仕事をしています。それでも人間の体には限界があります。子どもの貧困が、よく話題になっていますが、経済としての貧困だけでなく、教育、福祉の貧困が降りかかっている。少子化でありながらも、このような現状でお母さんたちは孤立して悩んでいます。

私は「保育を金もうけの道具にするな!保育園の増設は公立で。安全破壊の民営化はダメ」と主張します。杉並区の保育行政にはとてつもない矛盾が蓄積され、いつそれが噴出するかもわからない状況があると言わなければなりません。区長や区議の実績づくりのような、「数字合わせ」のみの「待機児童ゼロ」ではなく、本当に安心して子どもたちの命を守る対策が必要です。経営者や株式会社などに補助金が渡るシステムではなく、本来の福祉としての保育に責任を取る区立直営保育園の着実な増設と現場の保育士さんたちの労働条件の改善こそが、子どもたちの命を安全に育むために必要なことだと思います。

関連記事