3月14日予算特別委員会で意見開陳を行いました

【1】

予算特別委員会に付託された全ての議案に反対の立場から意見を述べます。

新たな戦争の時代が始まっています。5月G7サミットを前に、広島市教育委員会はこれまで平和教材として使われてきた漫画『はだしのゲン』を4月から削除することを決め、アメリカの水爆実験で被爆した漁船第五福竜丸の記述も平和教育プログラムから削除されることが決まりました。戦争の悲惨な実態の暴露、もしくは核兵器の残虐性の告発を行政が覆い隠すことは許せません。「原水爆禁止署名運動発祥の地」を公式に掲げる杉並区でも、これは他人事ではありません。

ウクライナ戦争は1年をこえ、この戦争が単なる「ロシア対ウクライナの戦争」ではなく、アメリカが主導する〈ウクライナを前面に立たせた対ロ戦争〉〈ウクライナを戦場にG7がロシアをやっつけるための戦争〉であることが明白になっています。軍拡競争で軍事産業が空前の利益を貪る一方、物価高が労働者民衆の生活を直撃しています。ヨーロッパでは「今すぐ停戦を」「NATOは撤退しろ」「ウクライナに武器・戦車を送るな」をスローガンに反戦デモが巻き起こっています。イタリア・ジェノヴァでは港湾労働者が「武器を下げ、賃金を上げろ」をスローガンに、ウクライナ向けの武器荷揚げをストライキで拒否しました。

イギリス・ロンドンでは、デモ隊は「戦争で得をするのは兵器産業、NATO、アメリカ帝国主義だ」「ウクライナ戦争が核戦争と対中国戦争になる前に終わらせよう」と訴えました。日経新聞はドイツでの2万人のウクライナ反戦デモを「親ロ派」と決めつけ報道しましたが、戦争に反対したら「敵国の味方」とレッテルをはる「戦争プロパガンダ」そのものです。私が昨年3月3日の杉並区議会での「ロシア連邦によるウクライナ侵攻に断固として抗議する決議」に唯一反対した時も喧伝されましたが、戦争に反対することを「利敵行為」とみなす戦争プロパガンダが、政治家や大手メディアによって繰り広げられています。欧米からウクライナへの軍事支援は約10兆円と途方もない額です。戦争を進める主体の一方が米・NATOであることを曖昧にした「決議」は、ゼレンスキー政権と米・NATOにもっと戦争をやれと煽る役割しか果たさず、戦争を終わらせるどころか長期化・泥沼化させるものでしかありません。

沖縄に拠点を置く米海兵隊第3海兵遠征軍のジェームズ・ビアマン司令官が、1月9日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で次のように語りました。

なぜわれわれがウクライナでこれほどの成功を収めることができたのか。それは2014年以来、ウクライナ人の訓練、物資の事前配置、支援活動や作戦を維持する拠点の特定などに取り組んだからだ。われわれはこれを『セッティング・ザ・シアター』(舞台づくり)と呼んでいる。その成功事例を踏まえ、現在は中国との戦争に備えて日本と準備を進めている

戦争を「抑止」「回避」するのではなく、ロシアを戦争に引きずり込んでウクライナを地獄の戦場に変えたことを自慢げに「成功」と語り、同じことを日本でやる、次の戦争相手は中国だと公言しています。「中国の脅威」を煽り立て、アメリカが計画的・積極的に中国との戦争を構えていることを押し隠す政府やマスコミの言説は欺瞞です。

米バイデン政権は昨年10月、国家安全保障戦略で中国を「唯一の競争相手」と規定し、今後は「米主導の国際秩序に挑む中国との競争を決定づける10年になる」と明記。「中国を打ち負かす」と宣言しました。中国がよからぬことを企むので米日がやむなく対応を迫られているという描き方がありますが、米軍が行う対中戦争のために日本列島を出撃拠点とし、米軍戦略に自衛隊を動員することが前提となった岸田政権の安保政策(反撃能力)=軍事費2倍、そしてアメリカの至上命題の「中国打倒」の国家戦略こそが、東アジアの軍事的緊張と戦争危機を生み出しています。

しかし、岸田政権の大軍拡も大増税・社会保障解体も、まったく「国民的合意」などなく、むしろそれへの怒りは鬱積しています。戦争反対を自治体として貫くため、日常生活を送る地域、職場、自治体や公共空間を軍事利用させないことが必要です。事態は切迫しています。軍事費2倍化予算案はすでに衆議院を通過し、南西諸島の軍事要塞化と最前線化は急ピッチで進んでいます。先日の区長答弁のような「防衛費増額に疑問」「丁寧な説明と議論を」などは現実にとそぐわない客観主義的意見であり、杉並区は大軍拡を許さず、自衛官募集業務をはじめ自治体の戦争協力の一切を拒否する姿勢を今すぐ示すべきです。

9条改憲による自衛隊明記は「兵力確保義務」と「国防の義務」を発生させます。自治体による名簿提出が義務化され募兵業務が強制されます。「国と自治体は対等」とする戦後地方自治は破壊され、徴兵制と戦争の下請け機関とされます。自治体の自衛官募集業務は「現代の赤紙」です。杉並区は、対象者を抽出した名簿(21歳及び18歳の男女、15歳の男性)を自衛隊に閲覧させています。これから始まる対中国戦争で膨大な自衛隊員が死傷すると想定さる中、自治体の自衛官募集業務は一級の戦争協力となり、徴兵制に直結する行為です。名簿の閲覧を直ちにやめるべきです。

戦争を止める力は、戦争協力を拒否する労働者・住民の闘いであり、自国政府の戦争を許さない国際的な反戦運動です。戦争をやる政府=権力者に「良識」を期待するのではなく、歴史変革の主人公である労働者民衆の行動にこそ力があります。

「3・11」から12年。原発事故は何も終わっていません。岸田政権は原発政策の大転換を打ち出し、原発再稼働・運転期間延長、次世代型原発の新増設などを決め、あげくには「復興予算」を軍事費2倍化の財源に使うとまで言っています。とんでもない話です。福島では「いまだ自宅に帰れない人がいる状況で、どうしてこんな話が出るのか」と怒りが広がっています。原発汚染水の海洋放出を許してはなりません。この国策を正当化するために区立学校で「汚染水は薄めれば飲んでも大丈夫」ということを「科学」の名で教え込む。これが「教育」でしょうか。しかも地元漁民・漁協は絶対反対の姿勢を貫いているにもかかわらず、です。あらためて、チラシの配布中止・回収を求めます。

児童館についても一言述べます。子ども子育てプラザで小学生タイムやるとか、学童専用館でゆうキッズやるとか、それって児童館でよくないですか? 児童館をなくさないでと声をあげる子どもたち、保護者、職員の声を聞くべきです。再開発も道路計画も民営化も区長が誰に代わろうと絶対反対です。

【2】

最後に、議案第12号「杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」(以下、条例と略)への意見を述べます。私は予算特別委員会で条例に反対の立場から質問を行いました。しかし、いずれも区からは明確な回答は得られませんでした。予算特別委員会を受け、条例への不安がさらに高まったという区民、とりわけ女性からの声が多く寄せられています。なぜなら曖昧な制度とは社会的強者に都合のよいように利用され、弱者に不利益に働くからです。

歴史的に見れば、男女雇用機会均等法、男女共同参画社会基本法などが、「男女平等」をうたいながら、実際には女性がかちとってきた保護規定を取り払い、女性を無権利の非正規雇用労働者として家庭から引きずり出し、そのことで労働者全体の雇用を破壊し、結局は女性に賃労働と家内ケア労働の両方を押し付ける結果となりました。最も利益を得たのは大企業と政府です。女性の権利を守る明確な施策と運動がなければ、「性の多様性」「ジェンダー平等」は必ず同じ方向に作用します。つまり女性の権利破壊を軸に、性的マイノリティと男性も含めた権利破壊につながります。

戦争突入情勢の中、それに明確に反対しない「性の多様性」「ジェンダー平等」は戦争に利するものになります。米軍は黒人、女性、同性愛者、トランスジェンダーの差別撤廃を掲げながら徴兵を強化し、イスラエルの「ピンクウォッシュ」も「性の多様性」をパレスチナ批判に悪用しています。性的マイノリティの差別・抑圧からの解放も、戦争絶対反対を決定的要素として貫かなくては実現しえないテーマです。

反戦・反差別で闘う労働組合をつぶし、労働環境を悪化させる攻撃が激化する中での条例の導入は、上記の2つを必然化し促進するものです。資本主義を前提としない階級的な反戦・反差別運動、労働運動の復権にこそ解決の道があります。

条例の具体的問題点は、「トランスジェンダーの権利」と「女性の権利」の衝突が起きた場合、区がどう対処するのかまったく明らかにしない・できない点です。これは現実には女性スペースをはじめ女性の性的保護を破壊し、女性をより容易に性被害にさらしていくものです。

私が条例反対の姿勢を示して以降、予想通り、私のみならず私の意見に賛同する区民や女性に対してまで、SNS上で「トランス差別者」などの罵声が浴びせられ、女性があたかも特権にあぐらをかく抑圧者・加害者・強者であるかのように描く、転倒した論調が横行しています。条例は可決前から“条例案を批判する者は差別者”という対立・抑圧を生み出す原因となっているナンセンスなものです。

女性が差別や性暴力から身を守るために歴史的にかちとってきた女性スペースをはじめとする諸権利は、女性がもともと持っている「特権」では断じてなく、むしろそれは性差別・性暴力が今なお厳然と存在している現実の証明です。それを前提としない「性の多様性の尊重」は欺瞞です。また、条例への区民とりわけ女性の不安や恐怖心は、個人の差別心や無知ではなく女性差別の現実に基づいて具体的に形成されているものです。条例への不安・不満は「トランス差別」でもなんでもありません。

条例の核心的問題点は、私有財産制度を経済的・政治的基礎とする家族制度の中で女性が「産む性」であるがゆえに「子産み道具」「家内奴隷」として抑圧され、性暴力や差別にさらされてきた歴史と現実に踏まえていないことです。また、女性差別と同じ物質的基礎を持って、家族制度・イデオロギーにそぐわない人々への差別・抑圧・排除と性的マイノリティへの差別は生み出されてきました。トランスジェンダーの人々も家族制度の中で女性、男性に要求される生殖機能を果たさず、資本の求める性規範に適合しないがゆえに差別の対象とされています。

今回の条例は、女性や性的マイノリティへの絶えざる差別・抑圧を生み出す資本主義社会を根底的に変革する立場がなく、むしろ表層的「改善」や啓発運動で社会的差別がなくなるかのような幻想を描いています。政治的・経済的な社会構造として物質的根拠を持つ性的差別・抑圧からの解放のためには、人間が人間を搾取するこの階級社会をラジカルに変革することが必要です。そこへの具体的変革の方策として、私は権利の拡大としてのパートナーシップ制度、同性婚、夫婦別姓に賛成であり、家父長制的家族制度・イデオロギー、戸籍制度、天皇制を廃止するために闘います。

区は区民とりわけ女性からの不安の声に真摯に耳を傾けて条例制定を中止するよう訴え、私の意見開陳を終わります。

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