杉並区議会第4回臨時会での反対意見

 7月21日に杉並区議会第4回臨時会が開かれ、「PCR検査体制の強化」と「区立学校における情報教育の推進と感染症対策・学習保障等の支援」などを含む補正予算案に反対の意見を述べました。

 

【1】医療経営者の救済ではなく現場の医療従事者を支援しろ!

 PCR検査の強化策として診療所などでも検査を実施するとのことですが、本当に医療従事者の負担なく検査が容易にできるものなのかどうかがわかりません。PCR検査がどうなっているのか闇の中で、一貫性がなく、検査体制そのものが確立しているようには思えないので反対です。
7月14日に開かれた記者会見で区内の医療機関の状況について田中区長は、「『杉並方式』ともいわれる『区内4病院への包括援助』は、医療経営を安定させ、医療に専念してもらうための体制をつくるためのもの」と発言。
河北医療財団理事長・河北博文氏は東京新聞朝刊(7/14付)のインタビューで「4~6月の医業収益は計7億8千万円の赤字の見込み」、「4月20日に区の補正予算が成立し、河北総合病院には7億9千万円が投じられることになった。感染者の受け入れに伴う逸失利益の補填はありがたい」「一方で、これは区民の税金からの支出だということを重く受け止め、職員の夏の賞与は減額することにした」と述べています。田中区長がおよそ23億円の区費を投入して救ったのは医療そのものや医療従事者ではなく、病院資本なのです。
現在、医療・福祉・介護など、コロナ禍で感染リスクを負いながら多くの人々の命を守ってきた労働者に対して、一時金の大幅減額や支給ゼロの通告が相次いでいます。400人の看護師が退職を検討しているという東京女子医大病院では、理事長室の改修に6億円をかけ、新しい「教育棟」まで建設しておきながら、コロナ対応の激務をこなしてきた現場労働者には一時金ゼロ。これが資本主義社会の現実です。医療資本にいくら金を注ぎ込んでも、それがイコール医療従事者の支援につながるわけではないのです。
「経営あっての医療」とか「金がなければまともな医療も受けられない」とか「医療従事者に感謝を!などと騒いでおきながら現実にはボーナスカット」とか、この社会を覆っている「当たり前」や「前提」そのものが根本的に間違いであり、こんな社会のあり方は覆されて然るべきです。感染症病床の防疫、医療従事者の安全、人員体制確保に必要な費用をきちんと保障するべきです。
 
 

【2】タブレットよりも先生を増やせ!

 今回の補正予算の柱となっている「情報教育の推進」12億円の予算は、需用費(タブレット端末代)8億5540万+委託費3億251万円=合計11億5791万円ですので、ほとんどの金が資本に流れ、資本を潤し、教育を金儲けの餌食にしているようにしか思えないのでこれも反対です。
安倍政権による突然の休校による混乱の中で、教育労働者は子どもたちの安否確認や学習プリントの配布など、学校と子どもたちの結びつきをつくるために必死に働いてきました。そして今、教育労働者は自らと子どもたちの命を守りながら学校教育を再開するという誰も経験したことのない事態の渦中にいます。コロナ以前から過労死に至る長時間・過重労働や、非正規雇用の増加、評価制度による職場の分断など、新自由主義教育のもとでは命も教育も守れません。 
安倍政権の第二次補正予算では学習指導員など約6万人を追加配置するといいますが、全国の公立小・中学校の数は約3万校ですので、つまり1校に2人程度、しかも非正規雇用です。現場の声は、「タブレットより先生増やせ」「非正規ではなく正規で雇え」です。
また、国の補正予算では、全国の小中学生に1人1台のタブレット配布と高速大容量回線を設置する「GIGAスクール構想」を前倒しし、2292億円を投じることが決定されました。すでにこの予算に国内外のIT、教育関連資本が群がっており、コロナ危機に乗じて文字どおり教育をカネ儲けの道具にしようとしています。
教育労働者の非正規職化、ICT教育によって得られる「学びの」ビッグデータによる子どもたちの完全な序列化・選別化に絶対反対です。
アメリカでは、すでに10年以上前から公教育のICT化と民営化が国策として推進されてきました。コンピューターの並んだブースに区切られた場所で、1人の非正規職のインストラクターが130人の子どもたちを監視している学校もあるそうです。ともに学び生きるという学校教育の原型は失われています。
杉並区は教育労働者の声を聞いているのでしょうか?「現場は3ヶ月間の休校による『授業の遅れ』を取り戻そうと気持ちばかりが焦っている」「特に高校入試。『塾でつめこまれた人だけが有利になるのは許されないとみんな思っている』」「オンライン学習がコロナ危機の救世主のように宣伝されているが、オンラインでできることはほんの一部。絶対に解決しない。直接向き合ってやりとりしながらじゃないと伝わらない」。
そして今、分散登校を通して初めて日本の学校の多くが20人以下の学級を経験しています。現場教師は「これぐらいの人数がいいよね」と実感を込めて話し、「教師を倍にして1クラスの人数を半分に減らせ」という署名活動も始まっています。教職員をAIやタブレットに置き換える金を、正規職の教員の大幅増員に使うべきです。
 
以上の理由から、議案第84号(補正予算第6号)に反対します。

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